「つうかそのスカートの下から出てるぴらぴらしたのはなんなの」
おれの言葉に、ぴらぴらってねえ、とさよちゃんは顔をしかめた。
・・・・、かと思った瞬間、「これはペチコートっていうのよ、スカートの下に穿く―」と謎の単語を喋りだす。
残念ながらおれにはまったくもって興味がない――あったらそれはそれで嫌だ――し、たぶんこれから先も 縁はないだろうから、適当に相槌をうっておく。

「で、これ、かわいいでしょう?」
説明が一通り終わると、さよちゃんはうれしそうに訊いてきた。おれはわかってもないくせに、うんかわいい、と真顔で答える。
正直下着じゃねえかよ、と思ったのだが、口には出さなかった。(そんなこと言おうものなら、おれは半殺しどころかたぶん生きて帰れない)

「それでネクタイだけどさあ」
"ペチコート" はこの際もう見逃してやろう、と次に移ろうとすると、さよちゃんは「もう終わるの?」とものすごく不満そうに呟いていた。 無視したけど。
「だめもとで聞くけど学校指定のやつつけてくる気も・・・ないでしょ?」
「そりゃあもう、一切」
さよちゃんは「だめもとなら聞かなくたっていいじゃない」などと言い捨てた。
予想はしていたけどなんとなく悔しくて大袈裟にがくりと項垂れてみる。
そのままさよちゃんを盗み見ると、彼女は小さい子供でも見ているかのように目を細めておれを見つめていた。

「あのさあ、おれが誰だか知っててゆってんの?」
さよちゃんは一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐににやりと笑って、淳くん、と呟いた。
その発言の意味がわからず、今度はおれが考え込む番だった。


「なあに、とうとう自分の名前もわかんなくなったの?」
「・・・・は?」
驚いて顔を上げると、さよちゃんはなんだかにやにやして俺を見ていた。
「ギャグよ」
「・・・、ギャグ、・・・・て何のこと」
意味がわからない、と眉をひそめると、さよちゃんはいきなり大声を上げて笑い出す。
余計に何のことだか分からなくなってしまったおれは、眉間にしわをよせて、半ばさよちゃんを睨みつけるように 見つめる。
ていうか、傍から見たら異様な光景にしか見えないだろうなあ、とこっそり溜め息をついた。

「ああ、もう、おかしい」
目尻の涙を拭いながらさよちゃんが言う。
「・・・なんだよ、そういうことかよ」
とりあえず彼女は簡単に説明をくれたのだけど、なんだかボケに説明をつけるのは悲しい、というかむなしいのでは ないかと思い、心の中でさよちゃんに謝った。

「淳くんてそんなのが理解できないぐらいばかだったの」
ああおかしい、ともう一度さっきと同じように人差し指で涙を拭った。
「ばかで悪かったなあ」
もうおれさよちゃん嫌いになってやる、と横を向く。
さよちゃんはくすくす笑いながらおれの顔を覗き込むと、鼻の頭を軽くつついた。
「拗ねないのよ、男の子のくせして」
「そういうの、だんじょさべつ、っていうんだぜ」
「わかってるわよ」
わかってるなら言うなよ。
口の中でこっそり呟いてその場にしゃがみ込んだ。 さよちゃんが、淳くんなんかかわいい、とぼそっと言ったのを、おれは聞きのがさなかった。(せめてかっこいいと言ってくれ)




「帰ろうかあ、」
おれは思い出したように壁にかけてある時計を見つめてのろのろと立ち上がった。
「服装検査はもういいの」
さよちゃんは意外そうに笑う。それでも解放される嬉しさみたいなのはあったみたいで、なんだか少しほっとしたような顔をしている。
「べつに、明日もできるじゃん」
荷物を――やっぱりのろのろと――まとめながらそう言うと、さよちゃんがええ、と素っ頓狂な声をあげた。

「まだ追い回されるの、わたし」
「何それ、まるでおれがストーカーみたいな言われよう」
「違ったかしら」
「全ッ然ちがうおれはさよちゃんのためを思って、」
「愛されてるのねえわたし」

いきなりそんなことを言いだすので、おれはなんだか挙動不審な人、になる。
「ば・・っか!ち、がうし!」
それはまるでそのとおりですさよちゃんあいしてます、と言うかのように教室にひびく。
挙動不審度が増すのが自分でもわかりすぎるぐらいによくわかった。

さよちゃんはそんなおれの心中を知ってか知らずか――知らないはずはないと思うけど――、にこにこして 「淳くんやっぱりかわいい」と、言うのだった。





2004.06.16


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