其処に愛は在るのか――


どこかで聞いたような台詞が脳内を駆け巡っている。
けれど私はそれに気付かないふりをする。いつも。
目の前にいる男の背中に両腕を回してぎゅう、と力を入れると、男はうれしそうにわらった。

「ねえ、すき?」

なんて女々しいことを云うのだろう、とはじめは思ったがもう慣れてしまった。

「・・・だいすき」

答えると大きなからだが私を押し倒す。
私はただ、従うように目を閉じた。
これじゃあまるで逃げているみたいだ、と心底思えてくる。


人間として見ても男として見ても、この男のことが好きなのかどうかなんてわからなかった。
それなのに、私はこころにも無いことを平気でつらつらと云える。
なんて馬鹿らしくて、なんて醜いのだろう、私は。
思わず自嘲する。

自分で云うのも何だけれど、いまではもう喘ぐことも『振り』をすることも上手くなってしまっていた。
私はたぶん、行為そのものや、この男に愛を感じてなどいないだろうに。



こんな私を、どうか、誰か罰してくれればいい。
そう願わずにはいられなかった。
一番愚かなのは私なのだということにもうとっくに気付いているというのに、未だ私は気付かないふりを続ける。

其処に愛は在るのか、と――
いつも同じ台詞が脳内を駆け巡っている。





2005.08.16 (Tue)
「そこに愛はあるのか」
という台詞はたぶん、野島伸司の話に出てきていたように思います。



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